変形性股関節症の症状チェック | 手術のタイミングとストレッチについて
変形性股関節症のやっかいなところは、変形性股関節症になりつつあること、なっていることに気づきにくいという点です。
軟骨がすりへったり変形したりすると元には戻りませんので、早くからの対応が必要になってきます。
何だか、腰やおしり、膝が痛むけど、歳のせいかな。我慢できるからこのまま様子をみよう、などと言っているうちに、いつのまにか歩くことが大変になるなど、取返しがつかない状態になります。
股関節の大きな変形や、軟骨のすりへりが激しいと手術が必要になります。
しかし、早期に、股関節を意識したストレッチなどの適度な運動療法と食生活の改善、体重コントロールを行うことにより大きな効果を生み出し、変形性股関節症の悪化防止、予防に繋がります。
現在年齢が30代後半以降の方で、10代~20代のときに負荷が高く激しい動きがあるスポーツを長くやっていた方(サッカー、バスケットボール、相撲、卓球など)、股関節と腰、および膝に少しでも違和感が出てきている方、肥満傾向にある方(メタボリックシンドローム)、食生活が乱れている方や、下記の項目をチェックしてみて下さい。
① 血縁関係のある親類に、股関節を患った方がいる。
これは、体型や体の骨格が似ると、股関節にも同じ症状が出やすい傾向、ということです。
② 椅子やソファに座っているときは必ず脚を組む。組まずにいられない。
③ 股関節を動かすとポキポキと音が鳴ったり、ひっかかりを感じる。
④ おしり、腰、太もも、膝に、重だるさを感じる。痛くなるときがある。靴下を履いたり、ズボンを履くことが大変になってきている
⑤ 股関節、膝、腰に慢性的な痛みが出ており、階段を上ったり、長い距離を歩くのが辛くなってきている
⑥ 日常の中で、股関節、膝、腰に強い痛みが出ている。
⑦ 股関節に激しい痛みが出ている。何もしていなくても股関節周辺が痛む。
③~④に心当たりのある方は、適度な運動とストレッチ、食生活の改善などの対応を開始されることを強くおすすめ致します。
多くの方が、基本的なストレッチや運動、食生活の改善をすることで(いわゆる保存療法で)、ズボンや靴下が履きにくくなってきたという程度の症状で進行をおさえることができます。
ストレッチの方法についても、何も特別な方法は一切なく難しくもありません。ごく基本的な下肢のストレッチ、全身のストレッチを丁寧に継続して行って下さい。近道はありません。
⑤~⑦の症状が出てくると、手術を検討する段階、タイミングになってきます。
手術を検討するポイントは痛みの強さです。強い痛みが続いていれば無理をせず、手術を検討して下さい。
変形性股関節症の手術について
変形性股関節症に対する手術の方法には、人工関節置換手術と骨切り術があります。まず人工関節置換手術について記載してきます。
人工関節置換手術は、患者の大腿骨骨頭部を取って、そこを人工関節に置き換えます。個人差はありますが、長くとも2時間程度で手術は終了します。術後2日目で車いすに移り、脚を曲げ伸ばしするなどリハビリを開始します。
一般的な人工関節の手術のケースでは3週間程度で退院します。退院する頃には、杖を使うなどして単独で歩行が可能な状態になっています。1か月程度で家事や仕事ができるようになります。
人工関節の耐用年数
現在の人工関節の耐用年数は15年~20年程度と言われています。ここ最近のものは30年もつように設計された物もあるようです。
高齢者でそれほど激しい動きをしない方であれば、公表されている人工関節の耐用年数に近い耐久性が発揮されるようです。
しかし活動が活発な若年層では、早い段階で人工関節の緩みや破損が起こるリスクが懸念されています。
人工関節置換手術を行った後に、人工関節部分の緩みや脱臼が起こることがあります。そうなった場合は再置換術(再手術)を行う必要が出てきます。
人工関節置換手術を行った後でも、スポーツはできます。ゴルフや卓球、自転車、テニスを楽しむことも可能です。
人工関節手術のリスク
手術には、血栓や細菌感染症といった基本的な合併症のリスクがありますが、人工関節置換手術の術後には、左右の脚の長さに差が出る、関節が緩む、脱臼のリスクがあります。
気をつけていれば、実際に脱臼することは少ないようです。それよりも脚の長さの左右差によって、手術をしていない反対側の脚や股関節に強い痛みが出るなど、左右差による後遺症が多く見られるようです。
股関節の人工関節手術を受けられた方の実際のご意見
当院の患者やそのご家族の中にも、股関節に人工関節を入れている方が相当数いらっしゃいますが様々な意見をお聞きしております。
東京都板橋区 80代女性 術後のご意見 (ご主人の介護をされていて、股関節の状態が限界だった)
『やめておけばよかった。痛みは完全に無くなったんですよ。でも、歩きにくい。なんかいつまでたっても慣れない感じで。歩き始めがすごく変な感じがするんです。医者が言ってた話と全然違って。どうしようか思って』
私が上記のご家族の経過を、週2回、2年程度見ておりました(私はご主人のリハビリ担当でした)。術後はかなり納得のいっていない様子でした。
客観的に見ると、ご本人がおっしゃるほど、術後の人工関節の状態は悪い状態ではないように見えました。
それほどご本人の手術前の股関節の状態は、強く痛む様子や脚を引きずって歩いている様子を見ておりましたが、確かにご本人がおっしゃるように、歩き始めの違和感や歩きにくさは相当に強かったように見受けられました。
総合的に見ると、あの強い痛みがとれて、手術をした後に80代で単独で歩くことができていることは、何にも変え難いことのように思いました。
東京都練馬区 90代女性の人工関節置換手術後のご意見(老人ホーム入居者で、両方の股関節が人工関節)
『(人工関節に換えたら)全然痛くない。とにかく本当に楽になった。これやる前(人工関節置換手術をする前)は痛くって。本当に(手術を)やってよかった』
この患者のリハビリを2年ほど担当しておりましたが、起立訓練や歩行訓練を行っても脚や腰を痛がる様子は一度も見られませんでした。
ただ、本人がおっしゃっていた通り、立ち上がるときは動作がゆっくりで、歩くときも歩幅が狭くゆっくりという状態になっておりました。この状態は年齢ではなく、人工関節の影響が大きいようでした。
骨切り術
股関節の骨切り術は患者の大腿骨や骨盤を切って移動させて、負担を軽減する、バランスを整えるという手術です。個々人の年齢、症状に合わせて現状の負担やバランスの悪さをなるべく軽減させるための手術を行っていくようです。
一般的には、比較的に若年層で症状が軽度の方に骨切り術を行い、骨切り術後に再び痛みが出た場合や、不都合があった場合に人工関節置換手術をするという流れです。
変形性股関節症患者のマッサージ治療とリハビリ
変形性股関節症と変形性膝関節症の症状をもつ練馬区の老人ホームに入居されている患者様でした。当院が練馬区で訪問マッサージを行っている業者から引き継いだ患者様で、当初は介助しても椅子から立ち上がることが難しい状態にありました。
はじめに老人ホームのヘルパーさんからお話しがあり、そのお話しの内容によると、当院が介入する前の訪問マッサージ業者は、マッサージを行う際に、毎回、患者をベッドにお連れせずに (ベッドへの移乗は行わない) 患者を椅子の上に座らせた状態のまま、10分~15分程度、肩と背中と下肢をさすりマッサージを終えていたとのことでした。
変形性股関節症は、強い痛みを発生させ、可動範囲をせばめることにより股関節とその周辺の筋肉が固くなっていきます。
しかし、股関節を、痛くない動かし方、痛くない範囲で日常的にこまめに動かしていくことにより状態が改善するケースは多くあります。
人の身体は年齢を重ねていくことにより硬くなりやすくなっていきます。身体を使っていなければ思いのほか早く関節と筋肉が固まり、バランスを崩し、痛みなどの不具合を発生させます。
しかしリハビリや予防としてこまめに身体を動かすこと、身体を使うことにより不具合の改善につながるケースは多くあります。
今回依頼を受けた患者様は、股関節、膝関節、足首が硬く冷たくなっており、1日中座っていることが窺われました。
変形性股関節症は動かす角度や強さによっては強い痛みが出ることもあるため、長期的な視点を持ち、ゆっくりと時間をかけて動かすことを継続しました。
初期の施術は、下肢一肢のマッサージと関節運動に10分~15分程度をかけている状態でした。(下肢が硬く、仰向けで股関節、膝関節、足首を曲げていくシンプルな介助運動1回に時間がかかる状態)
肩甲帯と腰回りのマッサージ、軽度のストレッチを合わせて行いました。
初期はご本人のスケジュールもあり施術時間は30分でしたが、スケジュール調整後、施術時間は50分になりました。
下肢が柔らかく動きが出てきた時期に、下肢の介助運動、下肢訓練をより重点的に行いました。
その後、軽度の介助で立ち上がることが可能となり、歩行訓練を継続して行った結果、介助ありで5メートル、休憩、5メートル程度の歩行であれば可能となりました。
この頃には、仰向けで股関節、膝関節、足首を曲げていくシンプルな運動をスムーズに行える程度に改善しました。
口数は少ない方でしたが、少しずつ色々なお話をして下さり「次はいつきてくれんの?」とお声かけをして下さるようになりました。