急性期病院の中間管理職として働く理学療法士のやりがいと葛藤 チームメンバーとの関係について

急性期病院の中間管理職として働く理学療法士のやりがいと葛藤 チームメンバーとの関係について

私は、10年前に理学療法士の国家試験に合格し回復期リハビリテーション病院へ就職しました。回復期リハビリテーション病院では、脳卒中や脊髄損傷、整形外科疾患を中心に診療していました。

回復期での勤務をしている中で、患者様の状態を把握できるようになることが、治療を行う上で非常に大切であることを感じており、また自身の知識不足についても痛感する経験を何度もしました。そのため、たくさんの患者様を診療でき、疾患についても多岐にわたる急性期の病院への異動を希望し、理学療法士経験6年目になる年に同法人内の急性期病院へ異動をしました。

急性期病院では今まで専門にしてきた脳卒中以外の患者様を担当することが多くなりました。異動した年の上半期は消化器外科などのがんのリハビリテーションや呼吸器などの内部障害のリハビリテーションに携わり、下半期で整形外科のリハビリテーションを経験しました。急性期では回復期と違い、1日の間に診療を行う人数が15人を超える日も多く、なかなか勉強する時間を取れないくらい忙しい業務をこなしていました。しかし、経験できることが全て新鮮に感じ、就職してすぐのフレッシュな気持ちを思い出しながらやりがいを持って働いていました。

私の異動になった急性期病院は若手のスタッフが多く、異動した段階で私の経験年数はチーム内で上から数えて2番目の経験年数でした。急性期病院で勤務して1年が経つ頃、私のチームで働いていた中間管理職の先輩が退職することが決まり、中間管理職のポストが空くことになりました。その際に、経験年数を考慮し私に中間管理職をお願いしたいと上司から打診がありました。

前任の中間管理職だった先輩は急性期病院の生え抜きのスタッフで、特に呼吸・循環器について詳しく、チームのメンバーから尊敬されていました。昇進の話をいただいた時は、異動してまだ1年で後輩と比べ知識量などもまだまだ少なく、不安もありましたが拝任し、次年度から中間管理職として勤務をすることが決まりました。

私が中間管理職に昇進する1週間前にリハビリテーション科の部長から呼び出しがありました。その時のお話の内容は「中管理職になるからと言って調子に乗ってはいけない、中間管理職は誰よりも謙虚で勤勉であるべき、後輩よりも勉強を行い、実際に患者様の治療を熱心に行い後輩の見本になるように勤務を行うことが最も重要である。」という内容でした。この時は、この言葉の表面上の意味のみを理解し、この言葉をそのまま受け取り、勉強は行っていたものの、勉強の量を増やすことをできていませんでした。

中間管理職としての勤務が決まった頃、世の中はコロナ禍が始まったところでした。緊急事態宣言が出るまでは、以前と同じように整形外科チームと内部障害チームに分かれて仕事を行い、私は前任の先輩から内部障害チームのリーダーを引き継ぎました。

中間管理職になってすぐの頃は、個人の業務に加えて、中間管理職としてチームのメンバーへ患者様を割り振ったり、指示を出したりする業務に追われるようになりました。

勤務前から多い日で20人以上の新患として処方をいただいた患者様のカルテを確認し、担当を割り振る作業がとても負担になり、ただでさえ勉強する時間をあまり取れていなかった状況をより悪化させました。実際、当時は7時過ぎに出勤し、夜7時過ぎまで病院で勤務し、帰ってからは家事と育児に追われて、毎日ヘトヘトになるまで働いており、自己研鑽する時間をあまり作ることはできない状況になっていました。私自身もこの状況はあまり良くないことを理解しつつも、上手く勉強を行う時間を作ることができませんでした。

そんな中で2020年4月16日に緊急事態宣言が全国に発令されました。病院では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が起きないように、様々な対策を行いました。その中の一つに、もともとチームのメンバーが10人程度であったものを病棟単位でメンバーを分け、5人程度の人数で小さなチームを作り実働するような対策が始まりました。

チームのメンバーは集中治療室(ICU)を中心に診療してきた内部障害に詳しい後輩A、回復期から異動してきた後輩Bとその他二人の後輩、私の5人チームとなりました。

このチームは主に一般内科病棟、つまり消化器疾患や尿路感染症や誤嚥性肺炎などの患者様の診療を中心に行っている病棟に配属されました。新しいチームが再編成された直後は、新型コロナウイルス感染症についてよく分からないまま手探りで感染対策が始まり、チームメンバーも少し浮き足だったような雰囲気での業務を行っていました。

初めての緊急事態宣言であり、当院では緊急入院以外の入院は基本的にはキャンセルにする対応を行なったため、病棟の患者数はかなり減っており、業務量も少なかったためチームの雰囲気は険悪になることなく半年ほどは大きなトラブルなく勤務を行っていました。

緊急事態宣言が一旦終了し、新型コロナウイルスの感染対策に慣れ始めた2020年の夏が過ぎたあたりから後輩Aの不満が募るようになってきました。

もともとICUでの診療をしてきており、循環器への興味がとても強い後輩Aにとっては一般内科での勤務が長い期間続いていることに対してのストレスがかなり溜まってきているようでした。そのストレスの捌け口として、後輩Aの後輩Bへ対する当たりがきつくなってきました。

後輩Bは回復期の出身であり、業務のスピードは早いものの患者様の病態把握などは不得意であり、後輩Aからかなりきつい言い方で、「なんでこんなことも知らないのか」など言い寄られていることもありました。

私は中間管理職という立場であったため、チーム内の雰囲気がだんだん悪くなってきていることもあり、何か対策を打たないといけないと思っていました。

実際に、後輩Aの不満に思っていることを聞き、チームの変更なども上長に打診をしましたが、その時点では新型コロナウイルス感染症の感染リスクなどについて、まだ不明な点が多い時期であり認められませんでした。また、後輩Aに人それぞれ働くペースもあることや知識量に差があったり、偏りがあったりすることはどの理学療法士でもあることだと伝えました。

他にも後輩Aにはできる限り循環器の疾患を持っている患者様を中心に割り振りを行いましたが、やはり循環器疾患が原因での入院ではないため、物足りない様子でした。このような対策を行なったことで、後輩Aは私の顔を立てるような形でしばらく落ち着いていました。

しかし、2020年冬になると再び後輩Aがイライラし始めました。やはり、感染対策とはいえ、希望する分野で勤務できていないことが続き、かなりストレスが溜まってしまったようでした。

ある日、私が休みを取る際に肝臓疾患の患者様を後輩Aに代診の依頼を行いました。診療を行う中で患者様の振戦(不随意な震え)があり、代診を行う日にも振戦あるかもしれないと伝えたときに、「なんの振戦ですか?」と質問されました。

肝臓の疾患では羽ばたき振戦と言われる特有の震えが見られることがあるのですが、この時の震えは明らかに違ったため「分からないから、また代診で見た時の印象を教えて欲しい」と伝えました。すると、ぼそっと「そんなことも分からないのに患者様の治療をしているんですか。」と後輩Aから言われました。

本当はこのときに、そんな言い方を上司に対してしないほうがいいと伝えられればよかったのでしょうが、私は内部障害に対しての知識が後輩Aと比較して少ないことを強く感じていたので、言い返すことができませんでした。

その後、カルテを見返し振戦が出るような疾患がないか確認を行いましたが、特に見つからず先輩にも相談しましたが、その場では分かりませんでした。1時間程度、振戦が出現する疾患について調べ、既往歴等の見直しも行いましたが分からず、悩んでいると後輩Aが「肝障害あるんだったら振戦出るでしょ!」と少し強めの口調で私に言いました。その場で言い返すと言い合いになることを予想し、私は一旦「羽ばたき振戦とは少し違った振戦だと思うけど、明日また確認をお願い。」と言うに留めました。

結局、次の日に後輩Aが代診に行った際は振戦が出ていなかったため、何の振戦だったかは不明でした(後日談ですが、看護師と相談しおそらくシバリングではなかったのかという結論に落ち着きました)。後輩Aもカルテを見ても結局何が原因になって起きた振戦か分からなかったため、強めに私に詰め寄ったことを反省した様子でした。

その後、しばらくの間後輩Aは私やチームメンバーに対して少し物腰柔らかく対応していました。私はこの経験を通じて、実務を行う上で知識が不足している状態であれば、中間管理職としての仕事に支障が出ることを痛感しました。

この出来事以来、私は少しの時間でも自己研鑽を積み重ねるように努力を開始しました。なかなか普段の業務の合間に自己研鑽を行うことは難しいと考え、出勤前に毎日30分から1時間程度勉強を行うように努めました。

この勉強を行なった分野ですが、後輩Aの専門である集中治療領域や循環器ではなく、がんのリハビリテーションなどの普段から自身が担当することが多い分野の専門性を高めました。その結果、後輩Aとはお互いに詳しい分野とそうでない分野が補完できる関係になり、後輩Aが私に対して反抗的な態度を取ったりすることは無くなりました。

後輩Aとの関係性が改善したため、後輩Aが他のチームメンバーに対して、きつい言い方をした際に注意することができるようになりました。また、チームの別のメンバーからも患者様の病態や治療についての相談を受けることが増えるようになりました。

結果的に私が勉強をしっかりと行うようになり、チームメンバーとのコミュニケーションを取る機会が増加し、チーム内の雰囲気は以前よりも良いものになりました。私が専門性を高めることでチームの雰囲気が良くなることがわかり、勉強を行うことにやりがいを感じるようになりました。

この経験を通じて、私の部署の部長の言葉である「中管理職になるからと言って調子に乗ってはいけない、中間管理職は誰よりも謙虚で勤勉であるべき、後輩よりも勉強を行い、実際に患者様の治療を熱心に行い後輩の見本になるように勤務を行うことが最も重要である。」という言葉の意味を少し理解しました。

実際に中間管理職として働く上で、チームメンバーの良いお手本になるような勤勉さ、十分な知識や患者様の状態を改善するための技術を持たなければ、後輩への指示を出しても形しかその指示に従ってくれませんでした。

しかし、小さな努力を続け、その努力がチームメンバーに認められるようになって初めてチームメンバーが真摯に指示を聞いてくれるようになりました。後輩の立場になって考えると、常に努力をしている上司と努力を怠っている上司とどちらに着いて行きたいかを考えると、間違いなく前者であることが分かっていながら、時間に追われることを言い訳にしてなかなか行動を起こすことができなかったことを反省しました。

中間管理職になって1年以内で最も葛藤を感じた今回の経験を通じ、理学療法士として専門性を持ち、チームメンバーを引っ張っていく必要性を理解しました。また、私が勉強を行うことで患者様に還元できる治療が増えるだけでなく、チームの雰囲気にもいい影響があることがわかり、自己研鑽に対するやりがいをとても感じました。

今後も中間管理職として、一理学療法として、働く上で自己研鑽を続けていこうと考えております。また、自己研鑽をしっかり行うことで中間管理職としての仕事、具体的には患者様の割り振りにおいても円滑に業務が進むようになりました。さらに臨床面でも知識が増え、より良い理学療法を患者様に提供できるようになったことに加え、後輩から患者様の治療についての相談をお願いされることも増えました。

後輩からの相談に乗っていく中で、少しずつチームメンバーとも打ち解けていくことができ、中間管理職としてチームの管理を行うことに対してのやりがいも感じることができるようになりました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。私の中間管理職としての葛藤を感じた経験が読者の皆様の仕事を行う上での何かしらのヒントになれば幸いです。

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