作業療法士が効果を実感したリハビリメニューと内容

1 環境を整えることから始める

脊柱管狭窄症の進行、体幹下肢筋力・歩行能力低下によって食事の準備や入浴など身の回りのことが難しくなり、訪問リハビリと訪問ヘルパーの利用を開始したIさんでしたが、まずは安全に生活できる環境を整えることから始まりました。

この頃のIさんは脊柱の変形が進み、円背姿勢のまま前かがみで壁をつたって歩いている状況で、自宅内で転倒して起き上がれなくなり、旦那さんに何とか起こしてもらうということが何回もあったようです。

転倒防止のため歩行器の導入も検討しましたが、自宅内の環境的にも居室や廊下が狭く実用性に欠けるため、まずはレンタルの突っ張りタイプの手すりを導入することになりました。

今まではトイレに行く時にIさんが度々転倒するため、娘さんが心配しベッドのそばにポータブルトイレを設置されてそこで排泄されていたようですが、トイレまでの廊下に手すりを設置したことで歩行の安定性が向上し、昼間はトイレで排泄できることが徐々に増えてきました。

更にベッドも手すりを取り付けられるタイプをレンタルし、玄関の上がり框の段差も高かったため踏み台と据え置き式手すりを設置したことで、通院などの外出も格段にしやすくなったようです。

2 外来リハビリでは取り繕いが起こりやすい

訪問リハビリが入る前までは、整形外科病院で外来リハビリに通われていたIさんでしたが、自宅内の環境や度々転倒していることまでは担当理学療法士は把握できておらず、対策がなされていない状況だったようです。

高齢者のリハビリに携わっているとよくあることなのですが、恥ずかしい部分を見せたくないために自宅で転倒したことや危なかったことなどをなかなか話してくれなかったりします。のちに家族から「実は…」と話を聞いて知るパターンも多いのです。

その点、訪問リハビリの良いところは患者さんの生活の場である自宅でリハビリができるので、取り繕いにくく本音も聞きやすいので効果的なリハビリを組み立てやすいと思います。

3 リハビリは揉んでもらうもの?

手すりを設置したことでトイレまでの移動が増えてきたIさんでしたが、訪問リハビリの内容について「身体をもっと揉んで欲しい」と要望されることが増えてきました。

よくよく話を聞いていると、外来リハビリでは約20分間のリハビリ時間のほとんどを関節可動域訓練やストレッチなど徒手的な手技に充てられており、Iさんの中で「リハビリは揉んでもらうもの」という認識になっていたようです。

訪問リハビリの時間は約40分で、Iさんの場合は最初に体調確認やバイタルチェックなどをした後に、ベッド上で関節可動域訓練、体幹下肢筋力強化訓練を行い、立ち上がり訓練や立位バランス訓練、歩行訓練、入浴時のまたぎ動作などの日常生活動作訓練を中心に行っていました。

Iさんの中では「リハビリは揉んでもらうもの」という認識になっているので、ベッド上で徒手的な手技を行う時間が少ないことで不満が溜まっていたようです。

今までの経過もありIさんの気持ちは理解できましたが、ベッド上で他動的・受動的なリハビリばかりをやっていても筋力・体力は改善してきません。

特にIさんの場合は脊柱の変形で円背になっており、体幹筋力(腹筋・背筋)が特に弱っている状況だったので横になって筋力訓練を行うよりも、座位や立位など重力に抗する姿勢で筋力強化を行うことが効果的で重要だったのです。

4 医師の言葉の影響力は大きい

長年の外来リハビリで「リハビリは揉んでもらうもの」との認識が固まってしまったIさんに、これらのことを説明しても理解してもらうのはなかなか難しいものがあります。

分かりやすく説明しましたが、やはり納得されない様子だったので、ケアマネージャーに相談したところ「医師から言ってもらったらどうだろうか」とアドバイスを頂きました。

ちょうど整形外科の定期受診が近かったので、事前に主治医へ相談したことで効果的なリハビリ方法について主治医から直接説明していただくことができ、Iさんも「先生から言われた」ことで意識が変わり、立位や歩行訓練の受け入れも徐々によくなってきました。

これも高齢の患者さんと関わる中でよくあることなのですが、医師の言葉の影響力はかなり大きいように感じます。何人もの若いリハビリスタッフや看護スタッフに言われるより、医師のたった一言の方が大きな効力を持つケースが多くあるようです。

強引に説明や説得をしようとせずに、別の方向からアプローチするために他の職種に相談してみるというのは大切だと改めて感じた出来事でした。

5 リハビリの時間だけでは効果が出ない

Iさんの「リハビリは揉んでもらうもの」という意識が変わってきて、体幹下肢筋力を効果的に改善するためのメニューに意欲的に取り組んでもらえるようになってきましたが、訪問リハビリの時間はあくまで週2回の40分間です。

その時間だけ一生懸命リハビリに取り組んでも、他の時間はベッド上で横になって過ごす状況だと筋力改善の効果はほとんど現れてきません。

日常的に取り組むことが効果的であることをIさんにお伝えし理解はしてもらえましたが、一人でモチベーションを保って取り組むのは難しいものがあります。

そこで訪問ヘルパーさん、娘さんにもご協力いただき、写真付きでIさんのリハビリメニューの冊子を作成して声掛けをしたり、一緒に取り組んだりしてもらうことにしました。

廊下に設置した手すりに掴まって、足上げやつま先立ち運動、ハーフスクワットなどに取り組んでもらい、できた時には連絡帳に記入してもらうことで、こちらも日々の取り組みの状況を把握できました。

1人ではなく、誰かと一緒に取り組むことでモチベーションを保ちやすく、効果的なリハビリとなったと思います。

6 悪循環を断ち切って好循環へ

これまでのIさんは、背中が曲がっていることで長い時間座って過ごすこともきつく、ベッドで横になって過ごす時間が長くなってしまい、更に体幹・下肢筋力が低下してしまうという悪循環に陥っていました。

上記のリハビリメニューを訪問リハビリの時間以外にも続けたことで、体幹下肢筋力が改善し、座って過ごせる時間が増え食欲も少し改善したようで、悪循環を断ち切り良い循環に変えていくことが出来ました。

このように周りも巻き込んでアプローチしていくことで、Iさんにとって効果を実感できるリハビリを行うことが出来たと思います。

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