国立リハビリテーションセンターのリハビリ専門医
現代では、一昔前とは異なり多くの情報が流れています。国立の施設や大きな病院であっても、実際にかかってみると、きわめて杜撰な対応、いい加減な対応を行っているケースがあります。
中でもリハビリ業務は曖昧なところがあり、いい加減になりやすい業務と言えます。私自身、実際に多くの現場を体験して、当事者である患者ご本人やご家族の多くの意見に、仕事として耳をかたむけてきた経験から言えることです。
下記には、元新聞記者の島田とみ子さんによるリハビリ体験記「転んだあとの杖」から内容を引用させていただき、リハビリ専門医の1つの現実について記載いたします。
引用元 : 島田とみ子『転んだあとの杖ー老いと障害とー』(未来社・2000年・121頁10行目以下)
国立〇〇病院で暴言医師に失望したいきさつを話したら、知り合いの内科医が、国立リハビリテーションセンターへ行くようにすすめた。国立の有名な施設だ。
医師は女性であった。(中略) この医者はついに終わるまで患者の私の方に顔を向けなかったから、どんな顔か見ることができなかった。(中略)
「杖をついてでも、今よりよく、健常者のように歩けるようになるでしょうか」と質問すると、彼女は即座に言った。
「それは駄目ね。70歳を過ぎているから老化の方が早く進む。回復はできないでしょう」とピシャリと言った。整形外科でも、リハビリ科でも、まず患者の体を診察するのが普通だが、この女医はそれもしなかった。(中略)
「朝一時間歩きますが、時々道ばたの石などに腰掛けて休みます。そんなことしないで健常者のように休みなく歩けるようになりませんか」ときくと
「歩くのはいいですよ。筋肉がしっかりするし、骨がやせないから」と言った。「リハビリ二カ月間限定でやります」といって紙を書いたものを手渡し、理学療法士の部屋へ行くようにと促した。(中略)島田とみ子『転んだあとの杖ー老いと障害とー』(未来社・2000年・121頁10行目以下)
診察といっても私の体の状態も見ず、言葉のやりとりだけだった。顔も向けない女医。期待して行った私はまた失望した。国立リハビリテーションセンターという大きな看板のもとで受けたお粗末な診療だ。
※ 本書では国立〇〇病院とは記載されていませんが、本ページ上では国立〇〇病院と記載しています。
この国立リハビリテーションセンターの医師は「現状で自立歩行が可能な島田さんには、医療保険を使用したリハビリは必要ない。とりあえずは、リハビリテーションセンターで二か月間のリハビリをやって、本人の気がすめばよい」そう考えた、もしくはそれに近い考えをもっている様子がうかがえます。
この医師は、始めから理学療法士に責任を投げている感は否めません。
しかし、この医師が「自立歩行が可能な島田さんには医療保険を使用したリハビリは必要ない」と、考えたとしても、島田さんに医療保険を使用したリハビリは必要ないこと、自宅や自宅周辺で散歩や運動を継続して行えば十分であること、そのための具体的なリハビリのメニューを島田さんにはっきりと伝えるべきです。
また、「専門的なリハビリテーション」と言っても、非常に地道なものがほとんどである現実を島田さん (患者) に認識してもらうことが重要です。
その上で、リハビリに対するモチベーションが高く、日頃からリハビリを行っている島田さんの現状や、島田さんが行っているリハビリ (散歩や運動など) について、「今現在、島田さんが行っていることが重要であること (正しいこと) 」をしっかりと伝えるべきです。
リハビリを職務とするものが、患者のリハビリの量や、やり方を把握して、そのことについて話しをすることは当然の流れです。
しかし実際にリハビリテーションセンターの医師が行った診察は、島田さんの状況や意図を汲まず、過度な年寄り扱いをして早々に処理していることがうかがえます。
(このような事実を伝えること、話し合うことで患者である島田さんが「今、自らが置かれている状況」や「今やるべきこと、できること」を認識し安心することができます。わかっていても話し合いを実行しない医師は本当に多く存在しているようです。多忙を理由に最低限度の診察も行わないのであれば、医師、リハビリ専門職の存在自体が本末転倒でしょう)
特に下記のやりとりには問題があります。
『杖をついてでも、今よりよく、健常者のように歩けるようになるでしょうか』と質問すると、彼女 (リハビリ専門医) は即座に言った。
『それは駄目ね。70歳を過ぎているから老化の方が早く進む。回復はできないでしょう』とピシャリと言った。
とあります。
「70歳を過ぎているから老化の方が早く進む。回復はできないでしょう」という言葉自体が事実に反していて、リハビリに関わる人間が使ってよい言葉ではありません。
このリハビリ専門医は、数少ないデータで得た知識、それどころか、ただの感覚で話している可能性さえあります。しかも、かなり的を外れた感覚を持っているようです。
上記のリハビリ専門医が、島田さんにリハビリや回復について説明を行うならば、その説明は島田さん (患者) の今後に強い影響を与えることは容易に想像がつきます。慎重に行うべきです。
別の記事の、【リハビリ効果の実感 | リハビリに対する自主性の大切さ】に記されている、島田さんがご自身で記載した文面にある通り、少なくとも患者である島田さんには、重たい言葉、間違った言葉として伝わっていることがはっきりと見てとれます。
私は、医師やリハビリ業務に関わる人間の言葉や行動が、実際に患者のその後を大きく左右している場面を何度も見ております。単なる慣れや、いい加減さから、その事実に気づいてさえいない医師や理学療法士が多くいるように感じます。
いい加減に「回復します」と伝えることも間違っていますが、島田さんの当時の身体の状態や、その後の身体の状態を考えると、リハビリテーションセンターの医師から発せられた言葉は、考え足らず以前の失言でしかありません。
リハビリを継続して行った結果、健常者のようには歩けないが、筋肉と骨が強くなり、しっかりとして動きがよくなるのであれば、それは高齢者にとっては、本当に貴重な「回復」と言えます。
それをリハビリの専門医が「70歳を過ぎているから老化の方が早く進む。回復はできないでしょう」と口にすることと、さらに、それで話を終えてしまうことは問題です。
健常者の身体に戻れないことと、高齢者 (人間) がもつ回復力は別の話です。
70代の回復力、回復する事実、筋力がつく事実を伝えなければ、高齢者の「回復力」と「維持する力」を妨げることになります。
日常生活において、1度は立てなくなった、歩けなくなったことがある島田さん (患者) の心持ちを、まるで理解していないことがうかがわれます。
このリハビリテーションセンターの医師は、高齢者の回復力について、本当に知らなかったのかもしれません。